十年後

BACK | HOME | INDEX

  あとがき・註  

NHKで1987年から1989年まで放映されていた「アニメ三銃士」の二次創作による続編で、
本編より十年後の設定で、原作「二十年後」を換骨奪胎しました。
前半十話と後半十話は、アニメ独自の設定を生かしたオリジナルな展開です。中盤の復讐鬼編は主なエピソードに絞って
います。

第二部には、ミレディーやリシュリューといった大物の敵役が登場せず、モードントは現代人の視点から見ると成敗すべき憎まれ役として描くのが難しく、結果、扱いが小さくなってしまいました。
その代わりに、シュヴルーズ公爵夫人とかつての鉄仮面と思われる人物を、多面性のある大人としてより深く掘り下げてみました。
エドアルド・マルキアリのモデルは、実在のジェノヴァの海将アンドレア・ドーリアです。
中世に栄えたジェノヴァ共和国は、17世紀前半にはフランス、スペインの狭間で翻弄される斜陽の小国となり、
自前の軍隊を持たず国防は全て金で雇った傭兵に任せていました。
アニメ本編が放映された1980年代後半は、バブル直前の日本全体がイケイケ調子だった頃。
それからたった、二十余年の間に我々はその繁栄の頂点を滑り落ち、今ゆっくりと沈下しつつある実感は
むしろ黄昏のジェノヴァの命運に重なるように思えました。

構想十年、執筆期間3か月、リアル視聴世代と同じ、アラサー・アラフォーになった登場人物のことをあれこれ想像しながら書くのは楽しかったです。改めて、原作A・デュマの『二十年後』は、友情とは何かを問うような普遍性のある話だと思い、昔の友人に会いに行きたくなりました。

以下各話ごとのコメントです。

第1話
皆さんピエールとアンドレを覚えていますか?

第2話
ロシュフォール伯爵からしてみれば、マザランはリシュリュー閣下が拾ってやったんだ、と言いたいところ。アトスことラ・フェール伯爵はいきなりラウル出生の秘密を告白。原作でも公爵夫人は「自分の手で育ててみたくなった」わけですから、やっぱりどこかで気にかけていたんだと思います。

第3話
友情のためにひと肌脱ぐポルトス。そしてもうひとりの秘密主義者は、何やら地下活動に関わっているもようです。

第4話
部下サンドラス登場。サンドラスといえば暴露本『ダルタニャン回想録』作者。フィリップ殿下は、吝嗇のマザランに年金を打ち切られて、ムツゴロウ王国暮らし(笑)でも案外こういうの楽しんでるようです。

第5話
修道院も自給自足生活。村の乙女を出したのは、フィリップの帰って来る場所を作るため。


第6話
二人の覆面の男が合流してブルッセルの脱出を援護。最後覆面をとってみたら友人同士だった。たいてい映像として最初考えるのですが、言葉で表現するのが難しかったです。

第7話
ロシュフォール伯爵のハイテンションぶりを利用した脱獄計画。はだしのジャンは、原作グリモーとプランシェを足したような
活躍。

第8話
映像としては鬼気迫る場面だけど、デュマとの筆力の違いを思い知らされ(当然だ―!)。なんか、こう一発触発みたいなきまずい雰囲気を出したかった。

第9話
最初お互い疑心暗鬼だけど、だんだん、心を許していく、そういう変化が難しかったです。
アステリックスは、フランスの国民的漫画の主人公。ガリアの名将ヴィンキントリオックスがモデルになったらしい。

第10話
パリのカタフィル(地下愛好家)の話を読んで、加えてみたくなった場面。ジャン・バルジャンが逃走した、パリの地下水路は
この時代から、石材発掘の坑道としてあったんですね。ヴァル・ド・グラース教会近辺の地下坑道は、18世紀には遺骨が運びこまれてカタコンブになったらしい。

第11話
ここから前半の山場に向かいます。一日の時系列を追ってみました。原作だと個々の事件は扱われていても、どうもフロンドの乱そのものが遠景に追いやられているところがあるんですね。

第12話
一層喜劇味が増したマザラン。是非ともここはロベルト・ベニーニに演じてほしいです。

第13話
ここらから流血が多くなってきます。うーん。こういうシーンがないとモードントの残忍さがうまく表現できないと思ったんです。

第14話
イギリス編は、ニューカッスルの戦いと職人コスプレのためだけにあるようなもの。だって、国王救出エピソードって本編で既出だし…。原作のクロムウェル軍の「胸甲兵団」の言葉に反応。十七世紀の甲冑は胴体だけを覆うものらしい。

第15話
共通の敵に対峙して、ここで初めて四人の心がひとつにまとまって…体育会系男子の宴会のノリ。

第16話
悲壮なエピソードなのに何故か途中からコメディーに。「オーシャンズ12」みたいな軽〜い感じ。つくづく、どうしてこうなるんだろう。

第17話
原作で一番無力感を覚えたこのエピソード。あの四人なら救出できただろうけれど、歴史を変えることはできないわけで…。そして処刑台のやぐらの下に国王の血が滴り落ちるシーンは、映像としてとってもシュールな場面だと思うんですよね。本当に第二部って絵になるシーンが多いです。

第18話
なんでオレイリーなの?って…。オレイリーは某脚本家のおかげで、日本でも人気と知名度が高くなりましたね。彼の奥さんは(もう離婚しちゃったけど)
小林聡美に似ていると思いませんか?最後話を強引にかっさらっていくのはやっぱりオレイリーか。ちなみにこの小説もタイトルに!がついていますが、大河も人形劇も観てません。

さあ、ここでようやく半分が終わった。あと半分頑張るぞ。

第19話
明かされるモードントの正体。年齢的なところから考えると息子にできず歳の離れた弟に。でも、アニメのミレディーさんは自分の犯した罪を自分で引き受けたところがあるから、モードントの仇討ちって本当に説得力ないのですよね。だからたった10話だけの登場。最初は「トラウマがあって精神的に歪んだ青年」として書くつもりが、「クロムウェルに心酔した冷徹な議会軍将校」となってしまいました。現代から見ると、モードントは敵役として書くのに難しい人間ですよね。ものすごいジェットコースターなイギリス編でした。

第20話
行方不明のダルタニャン。アンリエットの悲しい場面とパウル君占いが続いていていいのだろうか?と思いました。
原作通り、真正面からマザランに挑むアトス。アトスの仁義や筋を通す姿と、小手先の政治術に頼るマザランとの対比。

第21話
食べ物で失敗したポルトスは食べ物で挽回します。
アトスの要求が一番分相応で、便乗して一番過大な要求をしているジャン…。キャラクターたちの性格が出ています。
パウル君が大活躍!。やっぱりアニメ三銃士は動物が活躍しなくちゃね。後で調べたら、オウムの寿命は結構長くて、30−40年もあるとか…ごめんね、コピー。
最後は、男の友情で締め。

第22話
フロンドの乱の「赤壁」、サン・タントワーヌ城門外の戦いです。相当脚色して史実とは異なる話になっとりますが…。
史実では、城門をこじ開けバスチーユから大砲をぶっぱなしたのは、ルイ十四世の従妹だったらしいです。いつの時代もお嬢様ってこわい、
と思いました。今回「現場司令官」として試練のアラミス。銃士隊というのは、国王の親衛隊でもあると同時に、貴族たちのエリート将校養成機関でもあったわけですよね。
兄弟、という呼び方は、大戦中のイタリアのパルチザンからとってきました。パリの古地図を見ながら戦局を書いた感想ですが、もうパリには当時の姿は残っていなんですね。城壁や要塞や、両替橋のような家のある橋、こういった中世の街並みは、むしろイタリアのルネサンス都市を思い出させます。

このあたりから、原作にないエピソード書いてると楽しいですね〜。

第23話
本来ならカオスで無政府状態のフロンドの乱を、宮廷軍VS反乱軍とものすごーく単純化。
ダルタニャンとコンスタンスのすれ違い。うーん。戦う男というのは恋人とか奥さんが戦場に入って来るのを好まないものなのじゃないかと。どちらももう十代じゃあないし、やっぱり今までとは違う関係が必要ですよね。

第24話
「父上と呼んでくれ。」原作アトスにこれを言わせたいがために、私はこの長ったらしい続編を書く決意をしたのでした。そのために、黒太子のルビーのエピソードを無理やり挿入したのでした。
現在もイギリス王室に伝わる、戴冠式の王冠を飾るルビーで、チャールズ一世の処刑後からチャールズ二世の戴冠式まで実際に行方不明になっていたらしいです。
でもって、最後はやっぱり宴会で締め。アニメ本編でもあった、楽しく皆で夕飯を食べるシーンっていいですよね。
シュヴルーズ公爵夫人の過去語り。こういう過去語りの回想シーンてアニメ本編でもありましたよね。
音楽が良かったのが覚えています。ちょっと内容はアダルトですけど、あの音楽をBGMにしてくれたらなと思ってます。

さて、次から舞台は唐突に地中海へ。
作者の独断と偏見の「海の傭兵隊長編」です。原作好きの方は見ない方がいいです。

第25話
島を乗っ取る偽装漁船。この時点でNHK放映は無理でしょう(笑)。サン・マルグリット島は、元々フランスの領土だったんだけど、ジェノヴァ・サヴォイ戦争でスペイン・ジェノヴァ連合軍がフランスから奪回して要塞を作って、その後、フランスがまた取り返して監獄にしたらしいです。ピロネル監獄もそうだけど、要人をイタリア国境付近に幽閉するのって、大丈夫なのでしょうか。お年頃ジャン。ダルタニャンの身辺が急に騒がしくなってきました。


第26話
タイトルからして挑戦的にやった、突っ込みどころ満載の回です。ファンの方々ごめんなさい。
マザランの長台詞と読みにくいイタリア語固有名詞は適当にスルーするしてください。
ここでやりたかったのは、鉄仮面の正体の暴露とアラミス過去との決別です。本編の鉄仮面はスペインと通じている描写が出てきましたよね。あれだけの戦闘能力と統率能力を持っていながら、「正体不明の怪人」のままにしておくのは惜しい、という勝手な妄想です。
そしてダルタニャンとコンスタンスの間にも、ドラマが転がっていきます。まあ、ひどい男ですよね。

第27話
舞台が南下するに従い得意分野に入ってきました。カタルーニャは現在のバルセロナ付近、ヴェネツィアは当時のヴェネツィア共和国。


第28話
はだしジャンの「プロジェクトX」。この回はかなり脱線風味。
童話で有名なシャルル・ペローさんは、古代人と近代人どちらが優秀か?ということを真面目に議論していたらしい。古代ローマ帝国の建築や諸技術というのは当時の人々にとって、まだまだ越えなければならない壁だったんですね。アタナシウス・キルヒャーはトンデモ発明が多く、今見ても笑えます。

第29話
罰ゲームのような変装ダルタニャン。このコスプレで潜入作戦をさせてみたかっただけです。実は二人でうちあわせて考えた裏設定があって、従者は侯爵夫人の年下のつばめでヒモということらしいです。

第30話
イフ城はモンテ・クリスト伯でおなじみ。どっちも偽物を交換した、ということで。
海の傭兵隊長編は、ちょっと展開が分かりにくいかな…。

第31話
一番タイミング悪い時に、一番来ちゃいけない人が入ってきちゃった。

第32話
第24話と同じくらい好きな回。フィリップ過去との決別。今まで守られる側だったフィリップは、ここではじめて何かを守る側に転じます。

第33話
またの名を「マルセイユ同時多発テロ事件」。あっちこっちでいろんな人がいろんなことをやっていて収拾つかなくなってきました。

第34話
巨神兵登場。ベル・イールの大渦巻と同じくらいあり得ない展開。最後の大役はポルトスに委任。

第35話
ふたりの鉄仮面の明暗。鉄仮面の正体は、マントヴァ継承戦争の際の大使をつとめたイタリア人外交官マッテオリという説があるから、あながち遠くもないのかも。
フィリップとの別れが何故か悲しいものに。そういえば、それまで何年間かこの二人は慎ましく支え合ってたんですよね。
最後にこの男も「仮面」をつけていた。あとはご想像にお任せします。

第36話
本小説(ライトノベル)最大の難関は、マザランの笑い話とこの婚礼場面。
右手による結合(dextrum iunctio)は古代ローマ時代からの結婚のポーズ。ルイ十三世とアンヌ・ドードリッシュの結婚式の際にもこのポーズが描かれている。ここまで苦労した割には、最後のスピーチがとっても「日本のお父さん」でした。
皆さん落ち着きどころが決まって大団円。ただ三銃士は解散なのが淋しいです。

参考になりましたら、一応資料を挙げときます。
フロンドの乱については 金沢誠『王権と貴族の宴』河内書房新社 1976年
パリ地下坑道について ギュンター・リア―+オルヴィエ・ファイ『パリ地下都市の歴史』2009年
集光鏡の記述は  バルトルシャイティス『鏡』国書刊行会 1994年
鉄仮面諸説は ハリー・トンプソン『鉄・仮・面』JICC出版局 1989年
このトンプソン説が映画「仮面の男」や小説「二人のガスコン」に影響を与えてますよね。

あと、その他もろもろ
佐藤賢一『史実のダルタニャン』岩波新書

パリ古地図は
http://perso.numericable.fr/parisbal/plans/Plansanciens.html

そして、豊富なデータベースサイト
アニャン氏とエトセトラ
http://coasa34agnan.uijin.com/
大変役立たせていただきました。ありがとうございます。

そして、ここまでおつきあいくださいました皆様にも、心からの御礼を。
THANKS!

BACK | HOME | INDEX
Copyright (c) 2011 Kyoko ASHITA All rights reserved.
  inserted by FC2 system