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  イタリア語版「アニメ三銃士」を全話視聴してみた  


小学生のころ何故か好きで欠かさず観ていたアニメ番組がありました。それは1987年からNHKで放映されていた「アニメ三銃士」というものです。
大人になって、ふとしたきっかけから、イタリアで放映されたイタリア語版吹き替えに出会い、ヒアリング練習用に最適とばかり全話視聴した結果…。
ねえ、これってすごく面白くないですか?
と改めてその魅力にはまってしまいました。

荒唐無稽な冒険活劇、全編を通して流れるゆったりとしたテンポ、能天気に近いヒューマニズム、そして時々入る演歌のサビのようなエモーショナルな盛り上が り、これってまさにラテンのノリ。何よりも、あの熱血漢なお調子者ダルタニャン、空気読まないバッキンガム、何かにつけ食うこと(mangiare)を連 発するポルトス、オーバーアクション気味のロシュフォール、常にマンマ(Mamma)を探すジャン、
この人たち皆その辺に普通にいます。@イタリア人ならば。
その上、脱ぎっぷりのよいセクシーなおねーさんたちが何故か権力の中枢にいたりする、とか、その国家権力が裏組織とつながっていたりするとか、
今でもあるあるわ… @イタリアならば。

以下、子供の頃お茶の間で見たものと本当に同じものか?というばかりに
めくるめくラテンな世界観を繰り広げる伊語版「アニメ三銃士」について、当時の学習ノートからレポートさせていただきます。

その一 主題歌
D'Artagnan D'Artagnan
e i moschettieri del re
D'Artagnan D'Artagnan
e i moschettieri del re
ダルタニャン、ダルタニャン そして 王宮の銃士たち [繰り返し]
D'Artagnan vuole tanto
diventare moschettiere del re
Ma per ora e' soltanto
apprendista moschettiere perche'
Ha coraggio ma non ancora
sa come lotta un moschettiere del re
Anche in mezzo ai guai
non si arrende mai e' cosi'
che un moschettiere compie il suo dovere
ダルタニャンは王宮の銃士になりたい
でも今は銃士の見習い なぜなら、
とっても勇気があるけれど、銃士がどんな風に戦うか知らないから
途中で苦難にあっても、決して屈することはない
こんなふうに、銃士は任務を果たすのさ

D'Artagnan sempre combatte
e non si abbatte che tipetto
D'Artagnan sfida i malvagi
regge ai disagi che tipetto
D'Artagnan giunge a galoppo
salta l'intoppo che tipetto
D'Artagnan D'Artagnan      イタリア語歌詞出典 Wikitestiより
ダルタニャンはいつも戦い、くじけない
ダルタニャンは悪に挑み、難儀に耐える
ダルタニャンは馬で駆け、障壁をひらりとびこえる

ダルタニャン、ダルタニャン
まず、冒頭からみんなでワインで乾杯してます(笑)そして、
コミカルなアクションシーンを集めたオープニングで、               
騎士道のルールを超越した主人公の戦いぶりを称えています。
歌手はChristina D'Avena。全く違う曲で歌詞はとっても単純。低年齢層向けだと思います。
イタリアンポップスは、演歌調とかバラード調とか、友情するよりも発情してしまう系のものが多いので、このくらいの方が爽やかで罪がないんじゃないでしょうか。

その二 吹き替えの人
透明なバリトンの美声はリシリュー閣下。本当に仕事できそうです。コンスタンスは、まさに華やかで色気があって小悪魔系。外見にぴったりの見事なしゃがれ声のマンソンは、隣の鉄仮面を食っていました。まるでマフィアのボスです。
不思議だったのは、仕立て屋ベルスランの部下になぜかフランス人が混ざっていたこと。
フレンチ訛りの強いイタリア語しゃべってました。(なんで起用したんだろ…?)

その三 台詞の翻訳
一般的に吹き替えの翻訳は、文脈などを考慮してかなり意訳されます。以下翻訳の妙を書きだします。オリジナル日本語版を見たのはかれこれ20数年前なので、元の日本語は覚えていませんが、拙訳でその差異がわかれば幸いです。

【敬語は古文法のVOI】
現代イタリア語文法では、敬称はLEIですが、「アニメ三銃士」では全編を通じて、
17世紀に実際に用いられたVOIの方を使用していました。日本語にすると、おぬし、貴様、そなた、そち、貴殿、かな?
Voi siete D’Artagnan ! きさまはダルタニャンか!
現在の実生活ではこんな言い回ししません。
特徴的なのは
Vostra Maestà  陛下 (ルイ13世、アンヌ王妃への呼びかけ)
Vostra Emminenza 猊下 (リシュリューへの呼びかけ)
Vostra Eccellenza 殿下 (フィリップ王子、王族への呼びかけ)
Capitano, Signore 隊長 (トレヴィル隊長への呼びかけ)
Signore, Monsieur Bonacieux ボナシューさん、(親方として敬意をこめて)ムッシューかシニョーレか一致していない。
ここらへんの言い回しや固有名詞は、おそらくデュマの原著のイタリア訳から直接とったものでしょうね。

【敬語が変われば人間関係も変わる】
初対面の人や目上の人と話すときは、敬語のLEI(ここではVOI)を使います。それがTUになったとき、それは親しくくだけた関係になったというしるしです。
Vi prego di scusarmi すみません。ここはトレヴィル殿の館でしょうか?
ダルタニャンは最初は三銃士に向かって敬語で話しかけます。
Ragazzo, quando tu parli con qualcuno, ti consglio di scendere dal cavallo
少年、誰かに話すときは馬から降りたらどうだ。
アトスは若造をのっけからTU(君)呼ばわり。
Volete il duello ? 決闘しませんか。
銃士に決闘をふっかけるときも実は敬語を使っていました。
折れた剣の一件の後、第四話
Sei tu, Aramis! 君か、アラミス!
Voreste fare bagno caldo 温かいお湯はいかがかい?
初めてVOIからTUを使うダルタニャン。これで友達に昇格。

敵同士のミレディーとダルタニャンは、お互い最後まで敬称VOIの関係です。
第52話
Voi avete salvato mia vita, avete giustiziata, non ho mai dimenticato. Adesso siamo pari.
Informate vostri uomoni che stanno a esplodere tutto, portate salvo vostri uomoni,
ma vi prego, fate presto! Cosa state aspettando? Via, ho detto di andare!!
あなたは私を裁き命を救ってくれた。決して忘れていないわ。これでおあいこね。
全てが爆破されると、皆に伝えて、そして皆を救って。どうか、今すぐ。
何をしているの。行きなさい!行ってと言ったでしょ!

Vi ringrazio ありがとう。
Addio mio caro, D'Artagnan...
アデュー。私のいとしいダルタニャン
様々な解釈を呼ぶmio caro….ミレディーはダルタニャンに気があったのか??
ミ レディーはダルタニャンの手腕を早くから認めているし、ダルタニャンはミレディーの過去を知っているし、本当はお互いをわかっているのですが、きっと敵同 士の緊張感から、ずっとよそよそしくVOIと呼びあってたんですね。最後に親愛の情をみせて、これでぐっと距離が縮まります。だけれどもミレディーとは永 劫の別れ。悲しいマイ・ディア・ダルタニャン…。
実はこのmio caro、意外なところで使われていました。
第35話 アトスがダルタニャンに
Non sei stato capace di ucciderla ma questo è la qualla verità sempre ho saputo, mio caro ,D’Artagnan.
君がミレディーを殺すことができないということは、ずっとわかっていたさ。mio caroダルタニャン。
このmio caroは、可愛い奴とか、憎めん奴、というニュアンスでしょうか。責めているんじゃなくて許しているんだよ、という言外の意味を込めて。愛されてます、主人公。

【本領発揮!愛の囁き】
イタリア語の表現の豊かさは、こういった「口説き文句」「必殺文句」にいかんなくあらわれます。

第6話 王妃と小船のバッキンガム 別れのシーン
Bon viaggio, Addio, Buckingham
お気をつけて。アデュー、バッキンガム
Vostra maestà, ci rivedremo presto, arrivederci.
王妃様、近いうちに再びお会いしましょう。さようなら。
情熱のラテンガイ、バッキンガムは、フレンドリー且つ強引に王妃を口説き続ける気です。

第22話 偽王妃とバッキンガム逢瀬シーン
Mio cuore e stato molto dubioso tra il mio onore di regina francia e il mio amore per voi
Duca di Buckingham ma alla fine ormai mi sono certa il mio amore per voi, vinto curiosità comprendere mio stato?
Si, capisco. Ma difficile di crederlo…tutto questo mi sembra solo sogno.
Ogni cosa del mondo non niente di che è altro sogno.
Ma, io sono felice, anche se soltanto sogno, anzi non vorrei mai svegliare più.
Dipenderà da quanto vostro amore saprà essere forte.
偽王妃:私の心はいつも揺れていました。フランス王妃の名誉と貴方への愛とのあいだで。
バッキンガム公爵。だけれどもついに今わかったのです。貴方への愛が打ち勝ったことを。
バッキンガム:わかります。でも信じられない。まるで夢のようだ。
偽王妃:この世のいかなることであれ、夢だというものは何もないのです。
バッキンガム:私は幸せです。たとえこれが夢だったとしても、醒めたくはない。
偽王妃:それは、貴方の愛がどれだけ強いかということ次第。

はっきりいってポエムです。アモーレを連呼する台詞をしゃべっている本人たちは至って真剣で、ハァハァという息遣いまで聞こえてきます。そして、ミレディーの思惑通り異次元ワールドに連れ込まれます。

第9話 国王夫妻とコンスタンスのほほえましいシーン
Potrete raccontare sua Maestà di D’Artagnan.
アンヌ:陛下にダルタニャンのことを話しておあげなさい。
Non prendete gioco di me, Maestà.
コンスタンス:私をからかっておいででしょう。王妃様。
D’Artagnan?  ルイ:ダルタニャン?
Il fidanzato di Costance. アンヌ:コンスタンスの婚約者ですわ。
Ha ha ha… ルイ:はっはっは…
Non è fidanzato, è poi…poi…molto piccolo di me.
コンスタンス:婚約者なんかじゃありません。ええと…私よりずっと子供ですもの。
Scusate, Cardinale Richelieu attende.
侍従:失礼いたします。リシュリュー枢機卿がお待ちです。
Ancora Richelieu….Costance mi dispiace, mi racconterai altra volta di tuo fidanzato.
ルイ:またリシュリューか。コンスタンス、すまないが今度、そなたの婚約者について話してくれないか。
進展早すぎませんか?第9話で国王夫妻公認の婚約者ですよ。

【翻訳者泣かせの男装の女】
イタリア語では、過去分詞と形容動詞が対象となる性別に応じて語尾変化します。
第20話
Potremo cosiderarci sodisfatti solo quando d’Artagnan sara tornato [男性形] a casa a sano e salvo.
ダルタニャンが無事で戻って来るまで安心するのは早いよ。動作主:ダルタニャン
Vi sono infinitamente grata [女性形] per quello che avete fatto.
なさっていただいたことに本当に感謝します。動作主:コンスタンス自身 
この言語体系では中性という概念は存在しません。ではあの人はどうなるのか。
アラミスは、基本は全編を通じ自分に男性形を用い、つまり男としてしゃべっています。
第45話 アラミスとマンソンのシーン
ho accettato vostro capitano di moschettieri, sono stato passato [男性形] alla vostra parte per sventare la vostra piano, e scopirire di forse maschera di ferro.
お前たちの計画の裏をかき、鉄仮面と思われる者を暴くために、私は銃士隊長を引き受け、お前たちの側についたのだ。
問題はこの後です。
Ma chi voi siete? ならば、お前は誰なのだ?
Date una occhiata, questa [女性形] sono io sei anni fa,François che avete ucciso era mio fidanzato. [男性形]
見ろ。これ(女)は6年前の私だ。お前が殺したフランソワは私の婚約者(男)だった。
ここで本人が初めて自分に女性形を使用。肖像と合わせるために、「これ」を女性形に、婚約者を男性形(これは事実)にしたんですね。

Allora vostro fidanzato, e voi siete una donna.
婚約者(男)…ということは、お前は女なのか
マンソンは、婚約者の男性形で相手の性別に気づいた模様(笑)。肖像画見てないでしょ。
A certo, mi ha trasvestita[女性形] di uomo per vendicare François, e cosi diventare moschettiere di sua Maestà
そうだ。フランソワの仇をうつために男のなりをした。そして陛下の銃士(男)となったのだ。
travesitire は異性装という意味、moschettiereは銃士(男性形)だから、この一文では女性形を使わないと変。銃士(女性形) moschettieressaという語彙も存在するのですが、最初からそれを使ってしまうと、秘密にしている意味がなくなるわけですよね。

第51話 砲台のシーン
Ora vorrei sapere perchè mi sono travestita[女性形] di uomo?
どうして私が男のなりをしたか知りたいか?
traveistireが出てくるところで、ダルタニャンに向けて初めて自分に女性形を使う。
Non sei obbligata[女性形] a raccontarmi tutto.
無理して話さなくてもいいよ。
これを受けたダルタニャンが相手に女性形を使います。この吹き替えの人(イタリア男)、アドリブでobbligataの最後のタの女性形語尾を強調してしゃべってくれています。女と意識してますよ、という意味で…。
Dopo qualchetempo fui obbligata [女性形] di sposarmi con altro uomo che non avevo mai visto e conosciuto.
しばらくして、会ったこともない、知らない男性と結婚させられそうになった。
別の男と結婚をさせられそうになる自分には、女性形を使わないと変。再び女性形使用。
Sposare altro uomo ,e che hanno costretta[女性形].
他の男と結婚するのを強いられた、だって…。
ダルタニャン、再び相手に女性形使用。
Si cosi dicisi non rimaneva altro soluzioni se non fuga, scappa dalla casa e investita di uomo, volevo vendicare François.
そうだ、逃げるよりほかになかったのだ。家から出て男の格好をしフランソワの仇討ちをしようと決意した。

investire di uomo(男に変装する)なら女性形を使わないとおかしいか。
つまり、アラミスは、女性形を使わないと文意が成り立たなくなるときだけ、仕方がなく女性形を使っているわけです。それに対して、ダルタニャンは、アラミスが女性形を使って以後、確信犯的に女性形を連発します。
Non posso lasciarti da sola, ci batteremo insieme fino al ultimo.
君を(女)ひとり置いていけるもんか。最後まで一緒に闘おう。

イ タリア男としては正しいけど、翻訳としては何か間違っているような……。別にそこは男性形のda solo でいいんじゃないでしょうか。だって普段相手に男性形使っているわけでしょう。以上、語尾のOかAかの違いが生みだす微妙な空気に、ある意味ハラハラされ 続けました。
おまけ マンソンのキメ台詞
Credete che possa fare una Domingella come voi contro un uomo come me
お前のようなお嬢さんが、男である俺相手に何ができるのいうのか!
Domingellaは貴族の子女に使うらしい、あるいはご令嬢とか、乙女とかそんな感じ。銃士隊長に任命したのはあなたでしょう。と思わず突っ込んでしまいました。

使ってみたいこんなフレーズ
Accipicchia 何だと! Dannazione なんてこったい!Fermatevi待て!
Mi pagherai 覚えてらっしゃい!
Traditore! うらぎりもの!
È un bergonio! 大変だ!
Questo Giovanotto あるいはGiovanino この坊や
Questo Bamboccio この小僧
Piccolino, PePe かわいいペペ…
Siete incapaci! この役立たず!

一体誰に使えるのか。

余談ですが、一番泣けたのは、ジャンが母をのせた馬車を追って雪道を走っていくシーン
「マンマ…マンマ…Mamma…. Mamma,,..Mamma….Mammaaaaaaaaa!!!!」
と連呼するのに、涙腺がゆるみっぱなしでした。こんなに泣けるシーンとは…。

お辞儀をする新教徒(9話)と
土下座をする村人(19話)

がああ、日本製アニメだったのね、と思い出させてくれる瞬間でした。
おそるべし、ジャパアニメ VIVA JAPANIME!!!
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